大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)4号 判決 1978年7月17日

上告人 松永義輝

被上告人 芦屋税務署長 ほか一名

訴訟代理人 川口秀憲

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審(その引用する第一審判決を含む。以下、同じ。)の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。原審の認定判断に誤りがあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠き失当である。論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田豊 大塚喜一郎 本林讓 栗本一夫)

上告理由

第一点原判決には日本国憲法第一七条の違背及び国家賠償法第一条第一項並びに同法第四条、同法第五条の解釈、適用について判決に直接影響を及ぼすこと明白な違法がある。

一 本件訴訟に於て、その解釈適用上重要なものの一つは「還付加算金」である。

国税通則法第五八条によると還付金等を還付する場合には、その金額に還付金等の発生の翌日から還付の日までの期間に応じ年七・三パーセントの割合で加算しなければならないものとされている。

即ち「還付金等」に加算されるものである。

そこで「還付金等」について「三晃社刊、杉村章三郎、須貝脩一、中川一郎、清永敬次共編コンメンタール国税通則法H、一頁」以下を見るに、

国税通則法第五六条は「還付金等」というのを「還付金」と「国税に係る過誤納金」にわけて規定しているものであり、この両者に通ずる上級包括概念は還付請求権ということである。

又その還付請求権が生ずる原因は納税義務なき納付である。

となされており更に右同書によると

(一) 「還付金等」のうちの「還付金」というのは実定各税法の規定により義務なき納付による税金の還付が定められているのが、この法律にいうところの還付金である。

次に「過誤納金」をこの法律は「過納」と「誤納」にわけている。と記されている。

(二) そして「過納」とは申告、賦課決定が過大であつて、それに従う納付があつた後に至つて更正、再決定または課税徴収処分の取消し、変更等により当初の納付が過大であつたこととなるものをいうのである。

(三) 更に「誤納」は当初から明らかに納税義務なき納付であるもの、即ち納付すべき税額の確定前になされた納付で納付すべき税額をこえて納付がなされた場合における、そのこえる額の納付などがこれである。

と記載され解されているものである。

二 本件訴訟に於て上告人が主張する「還付金等」は前述した前項(二)の「過納」に該当するものである。

しかもその金員は自己の自由意思に基づいて納付したものではなく被上告人芦屋税務署長(以下被上告人税務署長という)の更正処分によつて強制的に徴収されたものである。

三 そして右金員(過納金)は納付義務なき納付であつた旨、判決をもつて確定されたものである(<証拠略>)

四 つまり右金員は被上告人税務署長が上告人に対し納付義務なき納付を強制した即ち法に基づく正当な徴収権も存在しないのに徴収したものである。かかる徴収が故意か或は過失に基づくか、との点については後述するとおりである。

五 処で国家賠償法第四条及び第五条は民法の適用と更に民法以外に他の法律に別段の定めがあるときは、その定めを適用することを認めているものである。

そして国家賠償法は損害賠償、にはどのようなものがあるか、その範囲、方法について明らかに規定していないから民法の一般理論によることは明らかである。

判例に於ても

「国家賠償法四条にいう「民法の規定による」とは損害賠償の範囲、過失相殺、時効等につき民法の規定によるとの意味である」(第一法規刊、基本判例行政法第一巻九七六頁。最高裁判所昭和三四年一月二二日第一小法廷判決昭和三一年(オ)第四五三号、訟務月報五巻三号三七〇頁、裁判所時報二七二号一頁)

としているものである。

民法の規定によると損害の賠償は「填補賠償」と「遅延賠償」にわかれているものであり又損害は財産的損害と非財産的損害及び積極的損害と消極的損害である。

六 上告人が本件訴訟に於て主張する損害は「還付金等」のうち「過納金」に対する損害である。

そして上告人は被上告人税務署長の更正処分により納付義務なき納付を強制され、その結果還付請求権を有する過納金について所有権及び使用、収益権を不当に奪われていたものであり、その間還付義務ある還付金等の還付が行われなかつたものである即ち本件訴訟は金銭を目的とする還付請求権に附随するところの損害金についてのものであり、その損害も金銭を目的とする債務の不履行に基因するものである。

かかる状態における損害は民法に規定される金銭を目的とする損害にあたり「遅延賠償」に該当することは明らかである。

七 処で金銭を目的とする債務より生じた損害賠償額を如何ように定めるか。

民法第四一九条によると法定利率によりて之を定むとなしており又右法条の解釈について梅謙次郎著民法要義債権編巻之三。六四頁以下(<証拠略>)によると。

「金銭の用途は千種万類にして其の支払を怠りたる場合に於て債権者が何れの用途を妨げられ、為に損害を被むりたかを究むること極めて困難であつて、又一方に於ては金銭なるものは相当の利息を払へば之を得ること甚だむつかしからず又金銭を所有するものは相当の利息を取りて之を他人に貸与すること極めて容易なるを通常とするゆえに、その支払を怠りたるより生ずる損害は多くは其の利息額にありとする。これが本条に於て、この場合の賠償額を法定利率を標準として定むべきものとする理由である。」

と解されているものであつて、民法が法定利率を年五分、商法は年六分、借地法(第一二条第二項)及び借家法(第七条第二項)が年一割国税通則法が年七分三厘(七・三パーセント)と定めているものである。

右の法定利率のうち民法の年五分を除いて他は国家賠償法第五条に規定する「別段の定め」である。

八 結局金銭を目的とする還付請求権の損害の賠償額としては本件の場合過納金に対し発生の翌日から還付日まで国税通則法が定める法定利率である年七分三厘(七・三パーセント)の割合によることが適正であり又国家賠償法第五条が定めるところである。

してみると上告人が本件訴訟に於て不法行為か又は国家賠償責任を発生させるような違法な処分により生じた過納金に対し付された還付加算金は損害賠償であるとした主張は適法であり正当なものである。

九 それにもかかわらず原判決は二枚目裏一行目以下に於て

「その理由は次に付加するほか原判決理由記載の判断説示と同一であるから、これを引用する」

と判示するため、その引用する第一審判決を見ると七枚目表十二行目以下に於て

「又過納金は租税納付時に存在していた租税債務がその後に取消等により消滅したことによつて発生するのであるが斯る事態が発生する原因には様々の場合があつて国家賠償責任を発生せしめる違法な行政庁の処分に基因する場合もあれば、そうでない場合もある。原告はこの中前者の状態で過納金が発生した場合には、これに附せられる加算金は損害賠償的性格を有するものであると主張するのであるが斯る区別をする根拠は全く存しない」と判示し、

又原判決も右理由に次の判示を付加するものである(原判決二枚目裏三行目以下)

「そして右還付加算金が控訴人主張のように還付金等の支払義務の遅滞を理由として発生する利息と解すべき根拠もない」

と付加するものである。

しかしながら右のごとき判断は前述したとおり国家賠償法第一条第一項に規定する損害についての解釈を誤り又同法第四条及び同法第五条の解釈、適用を誤つたものである。

十 次に民法第七〇九条は「他人の権利を侵害したる者」と規定し又国家賠償法第一条第一項は「違法に他人に損害を加へたとき」と規定しているが解釈上民法第七〇九条の「権利侵害」と国家賠償法第一条第一項の「違法」とは同意義に解されているか又は「権利侵害」は「違法」の代表的な場合を示したものであつて違法性の徴表であると解されているものである(有斐閣刊、注釈民法(19)四〇三頁の(3) の(ア)以下及び有斐閣刊、古崎慶長著国家賠償法一七〇頁以下参照)

本件訴訟における上告人の請求においても右の「権利侵害」と「違法」の両方を含んでいるものである。

そして不法行為に於ける損害賠償について次の判例が存在する。

(一) 不法行為による賠償の遅延賠償額は法定利率によるべきである。

「民法七百二十二条に因れば不法行為には債務の不履行に関する損害賠償は金銭を以つて其額を定むとの同法第四百十七条を準用するものにして従つて賠償の遅延よりして生せる損害賠償額は同法第四百十九条規定の如く法定利率に依るべきものなり」(第一法規刊、判例体系一〇-三巻民法債権総論(1) 九〇九頁。大審明治三七年(れ)七五号、同年三月三日刑二判刑録一〇輯三八九頁)

(二) 不法行為による損害賠償についても法定利率により賠償額を定めるべきである

「民法第三編第一章債権の総則は各種の債権に通する一般の法則を規定したるものなれば不法行為に因りて生じたる債権と雖も特に反対の規定なきに於ては其性質の許す限り之を適用すべきものなることは当院判例の認むる所(大正三年十月二十九日第一民事部判決)にして同第四百十九条の規定は本件原判決認定の如き不法行為に因る損害賠償に適用し法定利率に依りて其賠償額を定むべきのみならず」(第一法規刊判例体系一〇一三巻民法債権総論(1) 九一一頁。大審大正五年(オ)三三五号同年八月一二日民三判、新聞一二一五号三一頁)

との各判例が存在する。

右各判例からも明らかな如く不法行為に於いても民法四一九条によるべきものであることが明らかにされている。

十一 原判決及び原判決が引用する第一審判決は以上述べたとおり国家賠償法第一条第一項及び同法第四条並びに同法第五条の解釈、適用を誤り、因て憲法第一七条に違背するものである。

即ち憲法第一七条は「何人も公務員の不法行為により損害を受けたときは法律の定めるところにより国又は公共団体に、その賠償を求めることができる」と規定されているが原判決及び原判決が引用する第一審判決は右の「法律の定めるところにより」の趣旨をうけて制定された国家賠償法第一条第一項及び同法第四条、同法第五条の解釈、適用を誤り、上告人の損害賠償であるとの主張を否定したのは「法律の定め」に反するものであり明らかに右憲法に違背するものである。

第二点原判決には憲法第三〇条の解釈、適用を誤り、又民法第七〇九条及び国家賠償法第一条第一項並びに国税通則法第二四条、相続税法第六〇条第一項及び同条第二項の解釈、適用について判決に影響を及ぼすこと明らかな違法がある

一 原判決が引用する第一審判決は九枚目六行目以下において「被告税務署長のなした前記更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分は

(1)  別紙一記載の不動産を遺産であるとした点及び

(2)  遺産である農機具の評価が過大であつたとの二点に於て、事実の認定を誤つた瑕疵ある処分であつたというべきである。」

と判示しながら右事実の認定を誤つた点については故意、過失が存在しなかつたと認定する。しかしながら右認定は民法七〇九条及び国家賠償法第一条第一項に於ける故意、過失についての解釈及び適用を誤つたものである。原判決及び原判決が引用する第一審判決は故意、過失が、どのようなものであるか明らかにせず本件の故意、過失を否定しているが民法七〇九条及び国家賠償法第一条第一項における故意、過失の意義については次のとおりである故意とは行為者が一定の結果(権利侵害ないしは違法な事実)を認識し積極的にそれを実現しようとするか又は結果の発生を確実にともなう行為をした場合である。

次に行為者が一定の結果(権利侵害ないしは違法な事実)の発生を認識又は予見しながら、あえて結果発生を容認して行為した場合である。

前者は本来の故意であり後者は未必の故意である。未必の故意の場合は、行為者が生ずるかもしれないと思つた結果について生じてもかまわないという考えをもつて行為したものである。

更に行為者が結果が生ずるかもしれないとは一応は思つてみたが結局において、この場合には軽卒にも結果が発生しないであろうと信じて行為した場合は認識ある過失が存するものである。

又判例には次のものが存する。

(一) 不法行為の成立するためには加害者において他人の権利を侵害すべき意思あることを必要とせず権利侵害となるべき事実を認識して行えば足りる(第一法規刊、判例体系一四の一巻民法債権各論(III)。八四六頁大審昭和五年(オ)第五六八号同年九月一九日民二判、新聞三一九一号七頁、評論一九巻民法一四六九頁)

(二) 過失は行為が違法の結果を生じうべきことを認識しながらその結果を生ずることはないであろうとの希望をもつて相当の注意を欠く場合ばかりでなく、違法の結果が生じうるとの認識がなくとも相当の注意をすれば、これを認識しかつ避けえた場合にも存する(第一法規刊、基本判例民法第六巻六二五〇頁。大審大正二年四月二六日民一判大正二年(オ)八一号民録一九輯二八一頁、民抄録四六巻一〇七八四頁)

(三) 一定の業務に従事する者は業務の性質に照らし危害を予防するに必要ないつさいの注意をなすべき義務を負担し法令上明文のない場合にもこの義務を免れることはできない(第一法規刊、基本判例民法第六巻六二五四頁。大審大正一二年三月三一日刑三判、大正一二年(れ)一二五号刑集二巻二八七頁)

右(三)と同趣旨の判例として大審大正一四年二月二五日刑三判、大正一三年(れ)二二七〇号刑集四巻一二五頁、大審大正三年四月二四四刑一判大正三年(れ)五四九号刑録二〇輯六一九頁刑抄録五七巻六九七八頁、大審昭和九年六月二二日刑四判昭和九年(れ)五三三号刑集一三巻八六四頁、大審大正一四年一〇月三日刑四判大正一四年(れ)一〇一一号刑集四巻五七〇頁、大審昭和一一年五月一二日刑四判昭和一一年(れ)二九五号刑集一五巻六一七頁がある。

二 処で原判決が引用する第一審判決は九枚目表十二行目以下において、

(一) 原告は相続税の申告に当り前記不動産を相続財産として申告していたが、その後の更正処分に対する異議申立に於て不動産の生前贈与を主張するに至つたものであること。

(二) 贈与証書である公正証書<証拠略>の記載からは遺贈又は死因贈与と解する余地がない程明確に贈与契約の趣旨が表示されているものとは必ずしもいえないこと。

(三) 右公正証書には右不動産外二筆の不動産を原告に贈与する旨の記載があるが地目は何れも田と表示されていて農地調整法或は農地法による権利移動の制限の点からも贈与による所有権の効果が生じているか否か疑問の余地がないとはいえない状態であつたこと。

(四) 以上の事実がそれぞれ認められるのであつて右事実によると被告税務署長が原告の異議事由として主張した前記贈与の事実を認めるに足らないものとして右異議を排斥し、更正処分に従つて相続税を徴収したことを以て直ちに故意又は過失によつて違法に原告の権利を侵害したものということは出来ない。

と判示する。

しかしながら、一般通常人ならば右(一)の主張がなされた場合即ち一度は相続税の申告に於て相続財産であるとして申告した不動産が突然相続財産でないとの申立が起された場合それまで右不動産に対する課税の適当か不適当かの注意力を欠いている場合であつても前述した第一項(三)の判例のとおり、自己に於て業務の性質に照らし危害を予防するに必要な一切の注意義務を負つている事実を考慮するならば、より一層の注意力が働くはずである。

そして一般通常人が贈与証書である公正証書を見た場合それが私文書でなく職務権限をもつ公証人が職務上作成したものであることが明らかであり、又その作成年月日より、それが生前贈与であるか又は右(二)に判示するような遺贈又は死因贈与であるか、どうかという点について調査をする必要を意識するものである。

又右(三)に判示する地目についての調査及び農地調整法或は農地法による権利移動の制限についての点からも贈与による所有権移転の効果が生じているか否かを徹底的に調査し明らかにす至貢任を感じるものである。

更に業務の性質に照らし危害を予防するに必要な手段として相続財産について右(二)及び(三)のごとき疑わしき点がある場合その危害を予防するために相続税法第六〇条第一項及び同法同条第二項がその調査権限を規定し又国税通則法第二四条が調査義務を課しているものである。

三 それにもかかわらず被上告人税務署長は危害を予防するための相続税法第六〇条第一項、第二項に規定する調査はおろか実実について国税通則法第二四条の調査も全く行なわず机上の計算を行つた(<証拠略>参照)のみであり全く事実を発見すべき行為を怠つたものである(<証拠略>に於ても被上告人税務署長が右不動産に対し相続税法第六〇条の調査及び国税通則法第二四条に基づく調査をなした結果事実を認定したものであるとの主張及び立証等は全くなされていない。これによつても事実を発見すべき行為を怠つたことは明らかである)

四 一般通常人ならばかかる事実の調査を怠つた状態で更正処分を行なへば自己の行為から義務なき納付を強制する結果の発生即ち法に基づく正当な徴収権も存しないのに徴収する結果が発生する可能性があることが充牙に認識又は予見できたものである。

即ち被上告人税務署長は権利侵害となるべき事実の発生を認識又は予見できたにかかわらず更正処分に基づき税金を徴収したものであり右第一項(一)又は(二)に記載した判例に該当し故意又は過失があるものである。

五 さて次に原判決が引用する第一審判決は十枚目表四行目以下において、

農地を耕作するには通常一反当り少くとも三〇〇〇円相当の小農具を必要とするものと統計上考へられており而して原告の相続した農地の面積は約四反八畝であるので原告の相続した価格を一万四〇〇〇円と評価したものであることが認められる而して斯様に遺産の一部について具体的価格を判定するに足るべき資料が存しない場合に統計等の資料に基づいて、その価格を認定することは、もとより許されるところであつてたまたま、その評価額に誤りがあつたとしても、それを以つて直ちに被告税務署長が故意又は過失によつて納税者である原告の権利を違法に侵害したものということはできない。

と判示する。

しかしながら日本国憲法第三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」と規定し右憲法は「法律の定めるところでない」事実に基づき規制され納税義務を強制されることのないことを明らかにしたものである。

原判決が引用する第一審判決の右判示における「而して斯様に遺産の一部について具体的価格を判定するに足るべき資料が存しない場合に統計等の資料に基づいて、その価格を認定することはもとより許される」というのは「法律の定め」に当るのか否か又「たまたま評価額に誤りがあつた」場合その誤りは統計値さえ使用しておれば数量が極端に少なく又は機具としての価値が零であつても故意過失が全くなく適法であると法が規定しているのか否か又一般人に知られることのないような統計資料に基づくことが全べての故意、過失を阻却し適法なのか否か第一審判決の判示は右各点に関し何らの判断もせず不明であり、また合理性がなく全くでたらめな判断を行つているものである。

本件に於ける農機具は相続財産であつて、相続税法には所得税法一五六条のような規定はなく又所得税法一五六条の適用においても、その結果が真実の所得と一致しないときは適用が取り消されているものである。

又相続税法第二二条は相続財産は「取得の時に於ける時価」によるものとされ統計値によると規定されていないものである。

そして本件の農機具の評価が過大であつた点については原判決が引用する第一審判決は九枚目表八行目以下において、「遺産である農機具の評価が過大であつたとの点に於て事実の認定を誤つた瑕疵ある処分であつたというべきである」

と認定する。

上告人が相続した右認定における農機具は、その数量も少く、ほとんどが祖先伝代の古いものであつて、すでに機具として通常に、有効に使用できる完全な状態のものではなかつたものである。

<証拠略>の一に表示された「肩引車」にしても荷台がところどころ破損しており又車輪の片方がこわれたのを一時まにあわせに素人が補修したものであつて、それも片方のみ別の車の車輪であつて直径の違う車輪を使用しているため何も車は傾いていて荷物を量的に運べる状態ではなかつたものである。

又脱穀機は終戦時の物資不足の時期に購入した人力式のものであり、その回転輪に植えられた部品が部分的に破損し修理不可能のため破損したままであり又回転軸の軸受けには現在のボール・ベアリングと言われるような鋼鉄の軸受が使用されておらず単に厚さ二ミリ位のブリキ板が直接回転軸を支えている構造のものであつた為購入時より一〇数年経過した相続時には軸を支えるブリキ板の摩滅のため廻転軸は傾き辛うじて廻転さすことができるという代物であつた。

又「からすき」にしても祖先伝来の古いものであり素人補修が嵩み使用毎に構造材の組合せ部分が破損するため、ありあわせた材木で補強、補修が行われており全く廃物寸前のものであつた。

かかる状態は一般通常人であれば、それが統計上の価額で評価するのが適当であるか否か一目瞭然にわかることであつて、その価額も実物を見ることにより、より合理的で妥当な範囲の額を推定できるものである。

又相続財産は統計値によつて課税せよと相続税が規定しているものでもない。

よつて上告人は被上告人税務署長に対し相続税の異議申立

(<証拠略>)に於て事実の調査がなされていない旨調査についての注意を喚起する主張を行つたが被上告人税務署長は農機具の調査を行わなかつたものである。

処で統計額を用いた場合実際に相続される農機具との間に差異が生じることは一般通常入であれば容易に判明するところである即ち現実に相続した農機具の価額が統計額より多い時もあれば少ない時も生じるものである。

よつて上告人は被上告人税務署長に対しその相続した農機具は祖先伝来の古いものであり統計額より極端に少いことを申立てたものである(<証拠略>)

それにもかかわらず被上告人税務署長は国税通則法第二四条に規定する調査義務を怠り統計値を用いて課税し、事実の認定を誤つた瑕疵ある処分を行つたものである。

このことは上告人の相続した農機具は統計額より少なかつてもかまわない。即ち更正額に誤りがあつて不当に課税する結果が生じるかもわからないが生じてもかまわないとの意思に基づいたものであり未必の故意がある。

六 以上の次第であつて原判決及び第一審判決が前記不動産及び農機具についてなした判断は民法七〇九条及び国家賠償法第一条第一項の解釈、適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明白である。

七 又被上告人税務署長の前記不動産及び農機具に対する課税方法は法(国税通則法第二四条及び相続税法第六〇条)の定める調査を故意に行なわず即ち法の定めるところによらないで課税したものであつて憲法第三〇条が「何人も法の定めるところにより納税の義務を負ふ」と規定しているのに違背するものである。

原判決及び、その引用する第一審判決は右の事実の認定を誤り因つて憲法第三〇条の解釈適用を誤つたものである。

以上の点により原判決は破棄を免れないものといわなければならない。

以上

〈添付書類省略〉

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